匂いは物質ではない ― 分子から反応へ

酵素風呂の経営は、匂いとの関係が切っても切れません。
東京で店舗をオープンした際、ご近所からご意見をいただきました。
話は大きくなり、署名を集めて撤退を求められそうになったこともあります。
市役所に苦情の電話が入り、何度も立ち入り調査が行われました。
少しずつ匂い対策をしてきた私ですが、
発酵の初動で様々な要因もあり、いつもより発酵臭が強くなってしまったことも要因の一つでした。
(50度から60度までの間で元気になる菌がおりまして、その菌達がとても匂い残りが強くその時期をどう乗り越えるかは課題です。)

本気で撤退も考えました。
この店舗はスケルトンから作ったため、数千万の借金があります。
それを残して撤退する恐怖。
それでもこの場所で続けることの恐怖。
人々の健康や「自分を大切にしてほしい」という想いで始めた事業なのに、
ご近所の方に迷惑をかけているという事実。
眠れない夜が何度もありました。
恐怖と不安で、涙が止まらない日もありました。

匂いを科学的に考えてみる

でも、立ち止まっていても何も変わりません。
そこで私は、まず匂いを科学的な視点から考えてみました。
匂いは、ppm(濃度)や成分分析で数値化することができます。
けれど、強度や感じ方は、常に“人の感覚”を通して存在します。
ここで気づいたことがあります。
匂いは物質ではない。
匂いは、身体と脳の“反応”なのだということです。
匂いは、分子(物質)が空気中を漂い、
それを身体が受け取り、脳が解釈したときに起こる反応。
つまり、
匂い = 分子 × 受け取る身体 × 脳の解釈
匂いは確かに物理現象から始まります。
揮発した分子が鼻に入り、受容体と結合する。
けれど、それだけでは匂いにはなりません。
その信号が脳へ届き、
感情や記憶と結びついたとき、
初めて「匂い」として感じられる。
だから――
同じ分子でも、
・ある人には心地よく
・ある人には不快に
・ある人には懐かしく
感じられる。
匂いは外にあるものではなく、
“人間の中で起きている現象”なのです。

匂いの強弱は、外だけで決まらない


化学的には、匂いの強弱は分子の量(濃度)で測ることができます。
実際、数値上は問題がないこともあります。
それでも、鼻が敏感な方には「きつい」と感じてしまう。
それはなぜか。
匂いの強弱は、
分子の量 × 身体の感度 × 脳の解釈
で決まるからです。
身体の状態や嗅覚の感度、
感情や記憶によって、感じ方は変わります。
自分の環境は調整できても、
他人の感覚までは調整できない。
それが、匂いというものの難しさでした。
実際、ご近所の方の中に
「自分は鼻がとても敏感だ」とおっしゃる方がいらっしゃいました。
別の方は「匂わない」と言っているのに、
その方は「匂う」と感じている。
匂いは、客観と主観が同時に存在する世界なのだと痛感しました。

ウイスキー山崎の「香り士」


そんな中、ウイスキー山崎の「香り士」の話を思い出しました。
山崎には、香りを専門に判断する人がいます。
機械ではなく、自分の鼻で品質を決める存在です。
数値データはあっても、
最終的に判断するのは人の感覚。
しかも、その香り士は徹底した食事管理をしているそうです。
体調が変われば、匂いへの反応も変わってしまうから。
匂いは数値だけでは決まらない。
匂いは、身体の状態と密接につながっている。
その事実が、私の中で強く残りました。

だから私は、匂いを研究している
匂いは数値化できない部分がある。
けれど、確実に存在している。
目に見えないけれど、
身体や感情に影響を与えている。
多くの人の健康と身体を大切にしてほしいという想いで続けている酵素風呂。
匂い問題には主観的な部分が大きくあります。
それでも、鼻が敏感な私にしかできないことがあると感じています。

そこで思いついたのがノイズキャンセルの理論です。
続きはまた書きます。

発酵浴文化を世界へ。

この記事を書いた人

大下恭子(株式会社Freely 代表取締役)
静岡・東京で4店舗の発酵浴・酵素風呂を運営し、発酵・種菌研究、開業・導入支援を行っています。
母や娘の先天性の病気をきっかけに、「身体を大切にする文化」を広げたいという想いで活動中。
店舗運営で得た経験と研究成果をもとに、発酵浴の魅力を日本そして世界へ発信しています。

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